地震や台風などの自然災害によって引き起こされる思わぬ「災害」。現代の日本社会に生きる人々にとって避けて通ることのできない問題であり、こうした自然災害は予測が難しく突発的に発生するため、その被害を最小限に抑えるためには、事前の備えが重要です。

こうした中で、企業が災害に備えて行うべき重要なアプローチが「企業防災」です。
従業員の安全や顧客の信頼、そして事業の持続性を守るために、企業防災はますます重要性を増しています。
そこで、当コラムでは、企業防災の重要性と具体的な取り組みについてご紹介いたします。

なぜ企業が防災対策に取り組む必要があるのか

そもそも企業防災とは、企業が災害発生時に備えて事前に準備を行う取り組みの事を指します。

企業は、労働安全衛生法や労働基準法などの法令に基づき、従業員が安全に働ける環境を確保するための責務である「安全配慮義務」が課せられています。この安全配慮義務は、自然災害が発生した際にも適用されるため、企業は災害時においても従業員の安全と健康が確保されるよう、事前の準備を行う必要があります。

特に災害発生時の被救助者の生存率は4日目以降に急激に低下することから、災害発生後3日間は救助活動を優先させる必要があります。その際、従業員等の一斉帰宅が救助・救出を妨げないよう、災害発生後3日間は企業が従業員を施設内に待機させることが求められます。したがって、企業はこのような事態に備えて、適切な計画を策定することが重要です。

東京都では、2011年に発生した東日本大震災で多くの帰宅困難者が発生した経験をふまえ、2013年4月に「東京都帰宅困難者対策条例」を制定しました。この条例は防災備蓄に関するものであり、企業に対して全従業員分の3日分の食料や飲料水、その他必需品の備蓄を努力義務として課しています。

企業防災の基盤となる2つの考え方について

企業が、災害発生時に備えて事前に準備を行う取り組みを、「企業防災」と呼びます。
企業防災は、個人による災害対策とは異なり、「BCP(事業継続計画)」「防災」の2つの観点から考える必要があります。

そもそもBCPとは何なのか?

BCPとは、「Business Continuity Plan」の略称で、事業継続計画を指す言葉です。
企業が災害やシステム障害といった危機的状況に直面した際でも、重要な業務を継続し、存続可能な手段を確保するための戦略を記した計画書です。

大規模な災害が発生し、企業活動が中断した場合、その影響は企業だけにとどまらず地域全体に及びます。そのため、災害時の企業活動継続を図るBCPの策定、普及、推進は、日本における経済の安定だけではなく、企業の信頼性向上のためにも極めて重要です。

「平成29年度企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」 によると、大企業の約6割、中堅企業の約3割がBCPを策定していると回答しています。策定中を含めると、この割合は、大企業の約8割、中堅企業の約5割にのぼります。

BCPに記載された内容で特に役に立つとされる項目は、「従業員の安全確保」や「水や食料の備蓄」です。こうした結果を踏まえ、多くの企業が水や食料品、災害用品などの備蓄品の購入や補充を行っている傾向が見受けられます。

BCP(事業継続計画)の観点から考える企業の防災対策

BCP観点による企業防災は、災害などの緊急事態においても、迅速に事業活動を復旧させ、自社の資産への被害を最小限に抑えるための取り組みを指します。
ここでは、3つのポイントについて解説していきます。

①緊急連絡システムの導入
組織全体で緊急連絡システムを導入することにより、災害発生時にも社員およびその家族の安全状況を確認することができ、必要な対応や行動計画を効果的に伝えることができます。これにより。災害時でも事業活動を継続することが可能になります。

②バックアップシステムの構築
災害発生時はシステムやデータが損傷する可能性があるため、短期間で業務を通常通りに復旧させるためにバックアップシステムを構築することが重要です。これにより、業務の継続性を保ちつつ、顧客への影響を最小限に抑えることができます。

③在宅勤務の環境整備
災害が発生し外出が困難な場合でも、従業員が自宅で作業できる状態を整えておくことで、安全面でのリスクを低減できます。そのうえ、柔軟な勤務スタイルを整備することで、災害時の急な対応や変更にも素早く対応できます。

防災の観点から考える企業の防災対策

防災観点による企業防災は、従業員や設備に対する被害を最小限に抑えるための取り組みを指します。この取り組みは、個人が災害にあった際の対策と関連する側面を持っています。
ここでは、3つのポイントについて解説していきます。

①防災マニュアルの作成
防災マニュアルは、災害が発生した際に従業員が適切な対応を取るための指針です。このマニュアルには、災害時における組織体制や従業員の連絡先、避難経路などが詳細に記載されており、混乱を防ぎ効果的な行動を促す役割を果たします。従業員はこのマニュアルを理解し、定期的な訓練を通じて実践力を養うことが大切です。

②避難訓練
地震や津波、火災による二次災害など、組織が主導となりあらゆる状況を想定した避難訓練を行うことが重要です。多岐にわたる災害を想定してシミュレーションを行うことで、「最適な行動は何か」「避難場所はどこか」「顧客への適切な対応策はなにか」といった、さまざまな課題に対する解決策が明らかになります。

③災害備蓄品の用意
業務中に災害が発生した際、公共交通機関が遮断されたり、救助活動が優先されたりして、従業員が帰宅困難になる可能性があります。そのような場合に備えて、施設内で安全に待機できるよう必要な備蓄品を用意しておく必要があります。

企業防災に必要不可欠な飲料水・非常食などの備蓄について

従業員が帰宅困難な状況に直面し、施設内で待機する事態が生じた際に備えて、どのような防災備蓄品を用意しておくべきなのでしょうか。
ここでは東京都帰宅困難者対策条例を参考に、基本的な必需品とそのおおよその数量についてご紹介します。

【対象となる従業員】
雇用の形態(正規、非正規)を問わず、事業所内で勤務する全従業員

【必要な備蓄品リスト】
・水(9L/人)
災害発生時には水道が止まる恐れがあります。また、スーパーやコンビニの飲料水もすぐに品切れとなる可能性が高いため、十分な備蓄が必要です。事前にペットボトル入りの飲料水を用意しておきましょう。

・食料品(9食/人)
主食・副食・汁物と加熱剤のセットで構成することが最も望ましいです。ただし、難しい場合は、アルファ化米やカップ麺のような、お腹にたまる主食となるものを用意しましょう。さらに、乾パンやビスケットなど、そのままでも手軽に食べられる食品を用意しておくと便利です。

・毛布(1枚/人)
暖を取ることは、災害時において非常に重要です。季節を問わず、いつでも体全体を覆うことができるような毛布やブランケットを用意しておきましょう。

先述した内容に加えて、非常用トイレや衛生用品など、事前に用意しておくべき項目は多岐にわたります。災害時に備えて必要なものを想定し、適切な備蓄品を準備しておきましょう。

▼防災・備蓄品の詳しいチェックリストはこちらをご参照ください
https://okuri-mono.com/scene/disaster_prevention/ 

まとめ

企業防災は、様々な自然災害や緊急事態に備え、従業員の安全と事業継続性を確保するための重要な取り組みです。この取り組みには多角的なアプローチが求められますが、適切な対策を講じて安全な職場を維持し、持続可能な事業運営を確立するようにしましょう。